川久保玲インタビュー「新作ショー開催 意思貫く」2020年11月25日 読売新聞

モード界のフロントランナーとして、世界から目され続ける日本のブランド「コム・デ・ギャルソン」。デザイナーで社長の川久保玲さん(78)は、新型コロナウイルスの影響で、9月下旬から10月にかけて開催された2021年春夏パリコレクションへの参加をとりやめた。レディースの参加中止は1981年のパリデビュー以来初めてで、代わりに先月、東京でショーを行った。厳しい環境での服作りに対する思いについて、話を聞いた。
(編集委員 宮智泉)

新しいもの

約40年続けたパリコレ参加をやめ、東京・南青山の本社で新作を披露しました。

「パリに行くには物理的に様々な問題があります。ビジネスですからショーを行わなければいけないし、私の中で新しいものを常に出していかなければとの思いがあります。しょうがないです。 新しいものを作るということが第一ですから」

「パリでは様々な国の方々に見ていただいたり、マイナスなことも含めて意見を言われたり。他のデザイナーとの目に見えない競争もあります。 そういう場所でないことは確かです。ただ作る服や作業は、パリでの開催と全く同じ。スタッフはそのつもりで仕事をしています。出来上がった服を飛行機に乗せたか、(本社の)7階に持っていったかの違いだけです」

世界中の多くのファッションブランドが新作発表をオンラインに切り替える中、7月のメンズを含め、目の前で見てもらう生のショーにこだわっています。

「人が服を着ているのを見ていただく。目の前で、ということを特別に変える必要はないと思っています。人それぞれ考え方が違いますが、自分の考えていることを十分表現できると思わないので、私はデジタルにあまり期待しません。デジタルで何かを表現するということは、服作りとは少し違うクリエイションになる。私にとって、それは横道にそれることです」

五感を使う

2021年春夏レディースのテーマは「不協和音」でした。

「その先に何かがあるからです。面白いこと、予想外のことを生むかもしれないし、新鮮に感じるかもしれない。次のステップに続き、いいことがありますから。クラシック音楽だって、最初に不協和音で構成された曲には反対意見もたくさんあったと思いますが、今でも残っています」

「異質なものがぶつかり合うことで、気分が良くない人もいれば、何か違うものが見える場合もあります。 それが面白というか、いつもそれを探している。決まりきったことはかりできれいに収まっていたら、それでおしまいです。進歩はありません」

コロナ禍で、多くの業種が厳しい状況に追い込まれています。経営者としてリーマン・ショックや東日本大震災も経験していますが、今回は直営店などの休業もありました。

「今回は打つ手がないというか、何もできない状況にあったというのが、これまでと違います。以前は、それなりに頑張る余地もありましたが。問題を解決するために、取り組まなければならないことがたくさんあります」

「私たちは服を作っており、次のコレクションも展示会もあります。それを止めるわけにはいきません。テレワークが推奨されていますが、できない仕事もあります。製造業もそうです。何もかもコンピューターでできるわけではなく、触って、感じてと五感を使い続けなければ生まれないものがあるのです」

「ものづくりには多くの人が関わっており、この状況でやりにくさや不安に思うことはたくさんあります。 でも作ることができれば、先があります」

たゆまぬ努力

どんな状況でも仕事への姿勢が変わりません。

「新しいものを作っていくには、たゆまぬ努力が必要です。止まったらできなくなると言い続けています。それは様々な業界にも言えることです。コム・デ・ギャルソンがあるのも、昔から自分の生活などなしにしてものづくりに携わってきた人たちがいるからです。そういう存在が土台にあって積み重ねがあり、今がある。それをさらに進めていかなければなりません」

「怖いのは、コロナが長期化して、諦めの気分が広がることです。自分の存在や考えなどを発信しなくなり、みんな同じでいいという気分が変延してしまう。何も生まない社会になってしまいます」

新型コロナウイルスの感染拡大は、モードの世界にも暗い影を落としている。

年2回の新作発表の場であり、世界の流行の発信地であるパリやミラノなどのコレクションが従来のような形で開催できず、多くのブランドが発表をオンラインに切り替えている。しかし、布の風合いや服の細部はオンラインでは伝わりにくい。行動が制限される状況で、ビジネスにどうつなげていくかが課題だ。

日本でもレナウンの倒産をはじめ、多くのアパレル企業の業績は悪化している。先行きの見通しが立たない中、世界中で模索が続いている。川久保さんは多くのデザイナーと異なり、ファッションショーの最後に姿を見せない。取材もめったに受けないことで有名だ。写真撮影も、である。しかし、今回東京でのショーに関して、テレビ局のインタビューにも応じた。

ファッションのみならず、あらゆる業種がどんなに厳しい状況にあっても、ものづくりを止めてはいけないという強い危機感の表れなのだろう。

川久保 玲(かわくぼ れい)1942年、東京都生まれ。慶応大学卒業後、大手繊維メーカーを経て、73年に婦人服の製造・販売会社「コム・デ・ギャルソン」を設立し、社長も務める。81年にバリに進出し、パリコレクションにデビュー。2001年に芸術選奨文部科学大臣賞、04年にフランス国家功労勲章。17年、ニューヨークのメトロポリタン美術館で展覧会。

(出典:YOMIURI ONLINE)